第10章 魔法使いの君【日向翔陽】
「…ん?美咲?」
顔を急に覗き込まれてハッとなる。
あぁ、ごめんごめん、と言うと、「美咲、俺の話ちゃんと聞いてたかのかよー」とふざけ半分で怒られた。ごめんなさい。
「私も魔法使えたらいいのになーって思ってた」
君が私と一緒にいる時間を楽しいと思ってくれていますように。
君が私に振り向いてくれますように。
他力本願?でも願わずにはいられない。
「ふーん…そっかー、うん、俺も使えたらいいなぁと思う!」
「へぇ、魔法使えたら何をするの?」
「そうだなー、とりあえず身長を伸ばす!」
あまりに真面目くさった顔で言うものだから、私はぷはっと吹き出してしまった。
なんだよー笑うなー!足をジタバタさせる翔陽に、私は額を人差し指で小突いた。
「翔陽には翼があるじゃない」
「ううー、でも美咲より10cmは欲しい…」
そう言ってがくっと肩を落とす。
でもすぐに、「あ、」と言って顔を上げた。
「…でも俺、魔法使えるかも」
「…へ?」
「今日もそうだ。俺ちょっと使えるかも」
え?どういうこと?
私は首をかしげた。魔法なんて、ただの例え話なのに。
戸惑う私とは対照的に嬉しそうな翔陽。
「だって美咲に会いたいなー、一緒に帰りたいなーって思った日は美咲に会えるんだもん」
「え…?」
「こっち向けーこっち向けーとか念じてると目が合うし。やっぱり俺って魔法使い?」
少し照れた時の鼻を触る癖。
真ん丸の目をきゅーっと細める笑い方。
「今は、美咲が俺のこと好きになってくれないかなーっとか願ってます!」
なんちって?と冗談めかして翔陽はそう言った。
これだけ叶えられるなら身長も伸びるかなー、と大きく伸びをする。
「…ちょっと待って、翔陽」
「んー?」
「…さっきのってさ、冗談?」
翔陽がぐっと伸びをするのを止めた。
あああ。私は顔を手で覆って身を縮こまらせた。
冗談だったら本当に恥ずかしい。透明人間になってしまいたい。それか時間を巻き戻して…。
「えっとその…ごめん!俺、」
「あ…う、ううん!いいの、私、」
「すごい本気なんだけど、返事って貰えたりする?」
彼はきっと、本当に魔法使いなのかもしれない。
『魔法使いの君』おわり