第10章 魔法使いの君【日向翔陽】
「翔陽って魔法使いなの?」
ーー小さい頃、魔法使いになりたかった。
高校生になった私はもう、そんな夢が叶うなんて思ってないけど、今でも魔法が使えたなら、と思っている。
空を飛べたら、どんなに気持ちいいんだろう。
小鳥のように、鮮やかに。
そよ風に舞う花びらのように、ふわりと。
ピーターパンが好きで、飽きるほどに観ていた幼い記憶。ティンカーベルの華奢な羽が羨ましかった。
ーー魔法であの羽が私の背中に生えたら、どこへ行こう。
あぁ、洋服はどうしよう。
羽があっても着れるように、お母さんに縫ってもらおう。
そしたら、お母さんに魔法の粉をふりかけて、一緒に空を飛ぶんだ。
お父さんは高いところが苦手だから、お留守番ね。……
なんて、幼いながらに、そんなことを考えていた。
10年以上の年月が経った今では、そんな自分が微笑ましく感じられる。
よく考えれば、魔法使いじゃなくても良かった。妖精も、蝶も、小鳥も空を飛ぶ。
けれど、私は魔法使いになりたかった。
「俺が…魔法使い?」
隣に座っている翔陽がキョトン、と首をかしげた。
「そう。魔法使って、空飛んでるのかなって」
そう言ってから、我ながら子供じみた言葉だな、と心の中で苦笑いする。
翔陽は肉まんにかぶりつこうとした口を閉じて、考えるように少し目を伏せた。
「うーん…なんで?」
「なんで、って……うーん、バレーしてるときの翔陽の背中に翼があるように見えた、から?」
ティンカーベルのような、薄くて、可愛い羽じゃなかった。
ペガサスのような、力強い翼。
ぐわん、と空気を掴んで、自らの身体を空中に浮かばせる。
うーん、とあまりパッと来ない様子の翔陽。
「それを言ったら影山の方が魔法使いみたいだぞ?あいつのトスはすごいんだ、なんかこう…バシッと来る感じ。そんで…」
ああ、またバレーの話になってるなぁ。私は小さく吹き出した。
翔陽と話してると、いつの間にか話題がバレーにすり替わってることが多い。
バレーの話をしてる翔陽は、キラキラしてて。
失うことのない光を持つ、真っ直ぐな瞳。
その眼差しに、私はいつも心奪われて動けなくなる。
ほら、今もあなたの横顔から目が離せない。