第9章 ショートケーキ会談【月島蛍】
私の言葉に、目の前の彼は動きを止めて、訝しげに眉をひそめた。
テーブルに静けさが訪れ、私は紅茶を啜る。時間が経って少しばかり冷めているが、猫舌の私にはちょうどいい。
彼は私を疑るような視線を向けた後、メガネの向こうで瞼を閉じ、盛大なため息をついた。はぁー…と吐きだした口のまま発したのは、
「美咲先輩ってどうでもいいことによく悩んでますよね。意味が分からない」
「この紅茶を月島クンのその腹の立つ顔にぶっかけてさしあげようか」
「先輩が言うと本気なのか冗談なのか分かんないんでやめてください」
月島は嫌そうに顔を顰めながら、苺のショートケーキにフォークを入れた。
後輩のくせに偉そうな物言いに併せて、細身なのに身長が高いせいで総合して圧迫感のある図体。無愛想で、バカにしたような笑いしか出来ないようなこの男と、可愛らしいものの組み合わせが、意外性を通り越してもはや滑稽。何かのジョークか。
この話のきっかけは私の発言にある。
『恋人と友達の違いは何か、そもそも恋人の定義とは何か』
という議論のテーマを提示したところ、このザマだ。
「ボクはそういう感情論とか苦手なんで」
「あーあれだ、『感情は秘めて、知的で最高にクールなボク』な月島クンでしょ?分かる」
「シュガーポットの中身全部その紅茶の中にぶち込んでさしあげましょうか」
「あんたならやりかねないからやめて」
会話にどことなくデジャヴを感じながら、私はショートケーキを一口。
甘すぎないクリームとしっとりとしたスポンジが堪らない。