第7章 左様ならば、仕方ない【影山飛雄】
「…美咲さん」
あぁ…そうか。
私はもう、烏野の学生じゃない。
君は"高校の後輩"じゃなくなるし、私は君の"高校の先輩"じゃなくなる。
遠くなってしまうのは、距離だけじゃなかった。
けれど、君はそれをも跳ね除けて私を選ぼうとしてくれていると、思っていいのかな。
「2年後」
「…?」
「2年後。必ず会いに行きます」
「…うん」
「バレーあるし、学生身分だし、今の俺じゃ出来ないことだらけっす」
「うん」
「2年、待ってください。追いついてみせます」
「…うん、待ってる。ずっと待ってる」
ぎゅっとしてもらっても、いい?
そう言うと、ぎこちなく抱き締めてくれた。
「バレー、頑張ってね」
「ウス」
「日向と月島と山口と、仲良くね」
「…努力します」
「あははっ…」
「笑わないでください」
「…勉強もしっかりね」
「言ってることが母親みたいっす」
「確かに、自分でもちょっと思った。…浮気したら許さないよ。可愛い女の子がいても手出したらダメだからね」
「そんなことするわけないじゃないスか…」
すぅっ…と息を吸い込むと、影山の匂いがする。
影山の腕はしなやかで、力強くて、慣れない優しさがあって。
この感覚、しっかり覚えてなきゃ。
「…飛雄」
何ですか、と開きかけた唇に口付けを落とす。
突然のキスに、固まる飛雄。
「約束、守ってね」
「…当たり前っす」
2年後。
ーーピンポーン。
何気ない朝、唐突にチャイムが鳴った。
妙な胸騒ぎがして、私は考えるよりも早く玄関へと走る。
ーーガチャ、
「美咲さん」
私は裸足のまま、その人の胸に飛び込んだ。
ーーあぁ、この感覚。ちゃんと、覚えてる。
「…約束通り、会いに来ました」
『左様ならば、仕方ない』おわり