第7章 左様ならば、仕方ない【影山飛雄】
「それは好意だったり、嫌悪だったり…距離が近ければ近いほど、その感情は強く、濃くなる」
「美咲先輩、」
「ここで影山に質問。人との距離が遠ざかれば、その人への感情はどうなる?」
影山はムッとしたような顔をする。
「…先輩の理屈が通るなら、弱く、薄くなります」
「正解」
こんなやり取り、何回目だっけ。
ーー俺、頭悪いっすけど…美咲先輩の言ってることは、なんとなく分かります。
本が好きで、理屈じみた話が好きな私と、行動派な君がこうして付き合ってこれたのは、いつも君が一生懸命私に向き合ってくれたから。
「そして、人の心理的距離は、物理的距離にも関係する」
「……」
「その人と物理的に離れる、すなわち接点が減少する。接する機会がなければ、自分の中の"その人"という存在は、時間に伴って、次第に薄れていく」
2人きりの教室に吐き出した無数の言葉が、どこかに吸い込まれていく気がした。
それはまるで、闇のようなもの。
自分自身まで吸い込まれてしまいそうで、私は言葉の羅列をし続ける。
「時間は記憶、感情を風化させるのよ。どんなに強い想いでも、風に当たって雨を受けていくうちに、削られて、脆く、小さくなっていく」
「…要するに」
久々に影山が口を開いた。
その瞬間、闇がすっと遠退いていく気がした。私は小さく呼吸をする。
「先輩は俺を、俺は先輩を、いつか忘れるって言いたいんですか」
影山は責めるわけでもなく、ただ私に問う。