第6章 Love Game【及川徹】
『お前さ…俺のことどう思ってんの』
普段は明るい彼が、珍しく低めの掠れた声で小さく呟く。
そのシリアスな空気にどきりとした。
私はくっと唇を噛みしめる。
『俺はただの幼馴染?』
切なげな甘い声にくらくらする。彼は頬を赤らめながら、こちらを一心に見つめている。
何を言おうか迷って、私はだんまりを続けた。すると彼も口を閉ざしてしまう。重い空気が漂う。
ーー私は選択を間違ったのだろうか。
『……やっぱり、お前は』
声音が変わった。苛立ち、嫉妬、怒り、哀しみ…いろんな感情が蠢くような声。
『何を言っても、何もしても…俺のものにはなってくれないんだね?』
そう言う彼はすでに目が虚ろだ。
ーーあぁ、彼は。優しかったあの彼は。
変わってしまった。
『そしたら、もう…俺はお前のことを力尽くで奪う。どんな手を使ってでも。…死ね』
「あああああっここまできたのに!!」
私は彼を投げ出した。正確に言うと、彼の姿を写し、声を発するゲーム機を投げ出した。
「えーなになに、バッドエンド?」
「うう…最後の場面で黙らなきゃよかった…殺されちゃったよ…選択間違えた…」
「主人公がしんじゃう恋愛ゲームってどうなの?」
私は寝転がったベッドからガバッと身を起こして、この男ーー及川徹に向き直る。
「これは恋愛とサスペンスがテーマのやつなの!これくらいスリリングじゃないとせっかくの醍醐味が台無しでしょ」
「でも美咲は攻略なしだとバッドエンドしか行けないんでしょ?」
「だって…選択肢難しすぎ…」
私はがっくりとうなだれる。
こんなに苦戦する乙女ゲームは久々だ。
このハルキという男、幼馴染という定番キャラでありながら最後にはヤンデレと化す。これでハルキルートは3周しているが、ノーマルエンドが1回、バッドエンドが2回という散々な結果。いや、そもそもバッドエンドが2つ存在することが、このルート、特殊すぎる。
なかなかグッドエンドにたどり着けないわけだが、ここで攻略法を見るというのは私の美学に反する。
でも、ここで4周目に入るには少々疲れてしまった。