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【ハイキュー!!】青春飛翔論

第5章 50番 君がため 惜からざりし 命さへ 【山口忠】



「美咲〜、次移動教室だよ!早く!」
「はーい!じゃ、またね、忠くん!」

彼女はにっこりと笑顔を見せて、友達のところへ駆けて行った。
彼女の背中を見送りながら、うん、またね。と山口は小さく呟く。

(またねってことは、また話せるってことかな)

話をしたことがあるのは数回。
目があったのも、数回。
名前を呼ばれたのは、今日が初めて。

ーー初めて?
山口は妙な胸のざわつきを覚える。

『忠くん』

あぁ、そうだーーあれは入学式の日。
学校に向かう途中、猛スピードで走る誰かにぶつかられて、サブバッグの中身をぶちまけてしまったとき。
女の子が一緒に拾ってくれた。
あの時は恥ずかしくて顔をよく見てなかったけど、あの声は。

『大丈夫?これ山口忠って書いてあるけど…君のだよね?』
『す、すみません!俺のッス…』
『烏野の一年生だよね?私もなの。よろしくね、』

ーー忠くん。

(あぁ、そうだ。あの時のあの子だ)

山口は呆然として、自分の顔をパシン、と叩いた。
自分のバカ、なんでもっと早く気付かなかったんだ。
彼女は知っていたのだろうか。いや、多分知っているんだろう。
もしかしてよそよそしいとか思われてたのかな、と山口は今更ながらあたふたし始める。

彼女と話したい。
あの時は拾ってくれてありがとう、今まで気付かなくってごめん。あの時は顔をよく見てなくって…ーーー
そう言ったら彼女はどんな反応をするだろうか。
怒る?拗ねる?こんなバカな自分を笑ってくれる?
ああ、彼女と話したい。

もともと、気になってはいた。話せただけで、その時は嬉しかった。
でも、思い出した今は、もっと話したい。彼女のことを知りたい。

(…あぁ、これって)

日直がまだ消していない、黒板を見やる。

『君がため 惜からざりし 命さへ
長くもがなと 思ひけるかな』

さすがに命までは言えないけど。
ちょっとこの人の気持ちも分かるかな、と山口は思った。






『君がため 惜からざりし 命さへ』おわり
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