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【ハイキュー!!】青春飛翔論

第5章 50番 君がため 惜からざりし 命さへ 【山口忠】


[百人一首 50番]
君がため 惜しからざりし 命さへ
長くもがなと 思ひけるかな

《貴女にお逢いするためなら惜しくないと思っていた命までもが、こうしてお逢いできた後では、これからもずっとお逢いできるように長くあって欲しいと思うようになりました。ーー…》





古典の授業は嫌いじゃない。いや、別段好きというわけでもないが。
けれど、数百年前も考えることはそこまで変わらないんだなぁ…と思うと、山口はいつも不思議な感覚に襲われるのだった。

(…また恋の歌だ)

山口は板書を適当に写して、机に肩肘ををつく。

(恋愛の気持ちだけで命がどうだとか、やっぱり大袈裟すぎじゃないかなぁ)

昔の人はだいぶ思考が過激というか、なんというか。
まぁ、例え話ではあると思うけど…と、山口はぼんやりとそんなことを思う。

教壇では先生が、恋がどうの情愛がどうのという話を淡々している。仏頂面のこの人が愛というワードを言うのが、あまりに不似合いで、山口は心の中で失笑してしまった。


(君のためなら命も惜しくない、かぁ…)

山口は斜め前のポニーテールに視線を向ける。小さなリボンのついたゴムでくくられた長い髪は、彼女が黒板から机へと視線を移すたびにサラリと揺れた。

彼女はクラスメイトの一人で、実のところ、そんなに多くの会話を交わしたことはない。
けれど山口は、彼女が本当に優しい人だということを知っていた。実際、彼女を頼りにする者は多く、好意を抱く男子生徒も少なくない。
その後者に自分も含まれるのかというと、微妙だな、と山口は思った。
先ほども言ったように、彼女とは接点が少ない。話したことがあるのは数えられるほど。その僅かな時間で好きになることなんてあるのだろうか。
けれど、彼女のことが気にならないといえば嘘になる。

「…新海美咲さん、次の句を読んでください」
「はい」

彼女はその場に立って、次の歌を読み始めた。
はきはきとした、少し高めの声。
読み終わって座ると、ポニーテールが静かに揺れる。
その髪に触れてみたいな、と無意識に思って、山口はハッとして首を振った。

(髪を触りたいなんて…俺気持ち悪いな)

山口は黒板に視線を戻して、正直どうでもいい内容の板書をノートに写した。


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