第1章 青春の終わり、そして卒業【澤村大地】
「…明日だね」
「あぁ、明日だ」
「最後の日だね」
「あぁ、最後の日だ」
私の放った言葉を、同じように返す大地。
コツリ、コツリ、と時に重なって時に離れる二つの靴音。何百回目かの帰り道。
青春という時間は、10代の私たちに"永遠"の感覚を与える。
青春は残酷だ。輝くような思い出も、苦い過ちも全部飲み込んで、急に終わりを告げる。"永遠"などは幻だと言う。
現に私たちは、10代の時間をあと2年しか与えられていない。そしてこの日常も、明後日からは非日常となる。
「…3年間、楽しかったなぁ」
背中からの風も、最近少し暖かくなってきた。日が暮れるのも遅くなってきて、新しい季節の訪れを漂わせる。
私は目の前の自分の影を見つめて、ふと足を止めた。すると、数歩遅れて私より大きな影が立ち止まる。
「…美咲?」
「…大地」
「ん?どうした」
大きな背中。詰襟の制服が少し窮屈そうだ。体を捩じらせてこちらを振り返る大地の顔は夕日で赤く染まっている。
…おんぶして!
私はそう言いながら大きな背中にダイブする。
おわっお前な、とあたふたしながらもちゃんと受け止めてくれる大地はやっぱり大きい。
「どうしたんだよ、急に」
「重い?」
「いや…そんなに重くは、ない」