第20章 夏ノ想ヒ出【縁下力】
「縁下サマ!」
「美咲サマ!」
俺は、隣の美咲と顔を見合わせる。
眉を下げるこの笑い方は、この目の前の二人といるとよく見る。
たぶん、俺も似たような顔をしているんだろう。
揃えられた指先。
ピンと伸びた背筋。
地面すれすれの角度。
お手本とも言えるような華麗な土下座を見るのは去年ぶりだ。
…まぁ、時期的にもその内容は察するものがある。
バッと二つの顔がこちらを見上げて、俺たちに乞い願った。
「どうか我々を!」
「お助けください!」
予想通りの言葉に、やっぱりか、と俺たちはため息をつく。
お互いにチラリと見やって、二人でまた困り顔で笑った。
まとわりつくような暑さの中、ジージーと煩い蝉の鳴き声が聞こえていた。
「ここはユークリッド互除法を使って…」
「ゴジョホー?」
「……」
「はい、サ行変格活用は?」
「さ、し、す、す、せ、そ!!!」
「……えっとですね」
ここ、宮城県は田中宅。
たまにこちらを向く扇風機が少し涼しい風を送ってくれる。
部屋は冷房が効いてるとは言えないような、生ぬるい温度。
まぁ、これだけ人が一つの部屋にいれば、仕方のない話だ。
けれど、このどうしようもない疲労感は気温のせいじゃない。絶対。
「互除法、な。余りで割り算してくやつ。…覚えて、」
「ない!」
「だろうな」
ニッと笑う西谷に、張り付いた笑顔を返す。
ここまでくるといっそ清々しい。
「サ変は、せ、し、す、する、すれ、せよ」
「ええーと、せ、し、…す、する、すれ…せっ、せよ!だな!」
「これ高1の範囲…」
…美咲も、この坊主頭になかなか苦戦しているらしい。
文系科目が得意な美咲と、理系科目が得意な俺で、周りの(特に2人の)勉強を見ることが多いのだ。