第2章 嵐の夜の訪問者
「珀鉛病…」
思わず呟いた。
なぜあの男は珀鉛病の子供を連れているのか。
見たところ親子ではないだろう。
もしそうならあの男も同じ病に掛かっている。
憶測することは色々あるが、それよりもよく生き残っていたと思う。
たしかあの町の住人はみんな死んだと聞かされたのだから。
政府に駆除されたのだ。
この少年が今まで辿ってきた道を思うと胸が苦しくなる。
ギシ…。
床の軋む音に男が戻ってきたことに気付く。
咄嗟に少年の服と帽子を直してバスタオルをかけた。
「早かった…っ!」
振り返ると思った以上に近くに男は居た。
濡れた服は脱いできたのだろう。
細そうに見えた体は綺麗に筋肉が付いている。
いたるところに残った傷跡は、彼が歩んできた道の険しさを教えてくれた。
それよりも見慣れない男の肌に顔が熱くなってしまう。
「も、毛布を取ってくるから後はお願い」
どの道毛布は必要だし、なにより赤くなった顔を見られたくなくて逃げるように部屋を飛び出した。
自室で毛布を用意し、机の引き出しから解熱剤も取り出した。
それから…。
引き出しに手を入れたままどうするべきか悩んだ。
あの少年は珀鉛病だ。
やるべきことはわかっているが、すぐに行動に移せない。
理由は…。