第21章 【R18】月島蛍 〜two mark〜
「ねぇ、本当に作れるの?」
『作れるよー!ほら!今まさに!』
茅田はボールでかき混ぜてたのをケーキの型に移して、あらかじめ温めていたオーブンに入れて、スイッチを押した。
思いの外手際がいい。
事の始まりは水曜日のお昼の時の僕の一言だった。
「君さぁ、卵焼きもまともに焼けないのはどうかと思うよ?」
『一生懸命作ったのに!』
「一生懸命やればいいってもんじゃないデショ。」
彼女が屋上でお昼が食べたいと言うから、仕方なく引っ張られて連れて行かれてやった。春が終わり、夏が近づくこの暑くも寒くもない気温に、眠気を誘うような穏やかな風が心地いい。
なのに、彼女が差し出したこの手作りのお弁当。
味云々の前に、この卵焼き?みたいなやつなんか色おかしくない?
彼女はガックリと肩を落として、俯いて座り込んだ自分の膝を見つめていた。
これで美味しいって言ったら白々しい嘘にしかならないデショ。
「ちょっと、まさか一丁前に落ち込んじゃってるの?」
そう言って俯く彼女のほっぺたを引っ張って無理やりこっちを向かせると、すねた顔でこちらを見る。
「綾瀬。自分でこれ食べたの?」
『、、、、、、、、。』
「信じられないんだケド。ほら、口開けて。」
彼女の口に卵焼きの残りを箸で運んで食べさせる。
『っっっっ!!!!まっず、殺人級の不味さ!!!!』
ぶふっ
「ちょ、ちょっと、!、、自分が作ったので、殺されるってっ!!!、、、ククッ!、馬鹿デショ!!」
自分で作った卵焼きを食べて悶え苦しむ彼女を見て笑い転げる僕。とんでもない卵焼きの味を忘れるくらい、彼女といると僕はよく笑わされているような気がする。