第9章 鴉の腹を肥やす
「……私、ここから先は離れた所に居て、応援しか、見ているくらいしか、出来ません…」
コートに立つ事のない試合。サポートすら出来ない試合。観覧席から観ている事しか出来ない試合。何もかも初めてだ。一緒に戦えない無力感。しかし、そんな事に負い目を感じて立ち止まるのは、もうやめだ。
「でも、何にも出来ないと思う分、たくさん応援します。皆さんの家族と友達とか、応援しに来たくても来られなかった人達の分も含めて たくさんします。ここに居るライバル校の何十人、何百人分以上も応援してみせます」
不名誉な異名が広がったままの烏野。弱体化したままだと馬鹿にする人達が多いことは、会場に入ってから嫌でも分かった。今日烏野を応援しに来ている人も、注目している人も少ない。それは少なからず選手を、皆をアウェイにさせるものだ。しかし、そんな事を彼らに思わせてたまるものか。
「注目されなくても、不名誉な事を言われても、馬鹿にされたとしても、前に進む事を邪魔されたとしても────絶対、自分達を応援してる人が居るっていうこと忘れないでください」
もし逆境に立たされた時、後もう少し、もう一歩と踏ん張る力になってくれる筈だから。
「だから…その、まず、怪我しないように!それから無理せず!皆さんが精一杯プレイ出来るよう応援してます!」
言いたい事を言い終えると、締め方が分からず運動会の選手宣誓みたいな事を言い始めてしまう。我ながら恥ずかしい事言った自覚があるので尚更なのだ。ワタワタしてると、主将が私の目の前まで近付いてくる。
「瀬戸」
「は、はい!」
突然、主将が笑顔で握り拳をスッと私に差し出す。最初は何か分からず主将の顔と拳を交互に見詰めてしまう。が、ひょっとして…と思い、恐る恐るチョンッとグータッチをしてみる。すると彼は満足したようにニカッと満面の笑みを浮かべるとさっさと横に外れていく。疑問符を浮かべる間もなく、次にはスガ先輩が両手グータッチを求めてくる。そのまま応じると「よしよし!」とデッカい犬を褒めるみたく頭をワシャワシャと揉みくちゃにされた。ボサボサの頭で何がなんだか分からないでいると、「逃げずに戦うよ」と東峰先輩は優しく拳をこつんと合わせる。