第9章 鴉の腹を肥やす
「す、すみません。色々勝手なこと言って…」
伊鶴の声にハッと我に返った及川は、頬を掻き、バツが悪そうにして謝る。
「あ、ううんっ、全然。俺こそごめん。イジワルなこと言ったよね」
それに対し、伊鶴は少し困ったような笑みを浮かべて応えるのみだった。
そんな彼女を見て、及川は胸の奥がキュウッと鳴る。『そんな顔をさせたかったわけじゃない、そんな事を言わせたかったわけじゃない』、色々と言葉が浮かんでは、口に出ず消えていく。今は何を言っても伊鶴に要らぬ気遣いをさせてしまうような気がしたからだ。
しかし何か言わねばと口を開いた及川だが、その次の言葉が発せられることはなかった。
「おい。いい加減にしろや」
──────スッパァン!!!!
「オッベェッッ!!!!」
またもや及川の後頭部に強烈な1発がかまされる。
「え?!何?!何で?!?!」
「2人してモジモジしてる無駄な時間に付き合わされる俺の身にもなれや モジ川」
「モジ川?!?!岩ちゃん俺の扱い適当過ぎない??!!」
「お前に真面目に対応してたら おかしくなるだろ。頭が」
「倒置法で貶すのやめてくれない??!!!クリティカルヒットだから!!、」
怒りながらポコポコと拳を振るおうとする及川の頭をギチギチと鷲掴みし制止する岩泉。伊鶴は『及川さんの頭こそおかしくなりそうだ』と気の毒に思っていたところ、突然「おい」と岩泉に呼びかけられる。
「は、はいっ!」
「悪かったな。ウチのが世話かけちまった」
「あ、いや、私は何も…」
「そんなことねぇよ。良い“激励”をもらったぜ」
そう言うと、岩泉はニッと屈託の無い笑みを浮かべる。対する伊鶴は言葉の意図が分からず疑問符を浮かべていた。
「ちょっと岩ちゃん?!まさか伊鶴ちゃんのこと、オブッ?!」
「すぐに“そういう話”に持ってくな。そんな会話が許されるのは思春期までだぞ」
「絶賛思春期真っ只中の俺に今すぐ謝って!?今すぐ!!今すぐに!!!」
ぎゃあぎゃあと言い合う2人の会話により、伊鶴は更に頭上に疑問符が浮かぶばかりであった。