第9章 鴉の腹を肥やす
“鉄壁”の名を冠すブロックを持つ強豪高校。
そして、東峰先輩がバレーから遠ざる切っ掛けとなった伊達工業高校と、奇しくも対峙する形となる。
他を圧倒する威圧感。“鉄壁”の名の通り、まるで巨大な壁を前にしているかのような息苦しさを覚える。
そんな伊達工の面々の中で一際目を引く人物が2人。
先頭に立つ眉毛の無い強面の彼。
その隣で、含みのある笑みを浮かべる茶髪の彼。
一線を画す存在感を持つ彼らは、もしかすると、伊達工の誇る鉄壁の支柱と言える存在なのかもしれない。
不意に、先頭の彼が徐に腕を上げる。その突き出した腕の先の、人差し指。それは、東峰先輩へと向けられていた。
「!」
目の前の出来事に、東峰先輩も含めた私たちは目を見張る。それはあまりに不躾だろうと、思わず「なっ…!」と声を上げる。そして、当然黙ってなどいられない西谷先輩は食って掛かる。
「なんだ てめー、」
だが、その言葉の先は、静かに伸びた手に制される。
仲間の怒りを望まなかったのは、他でも無い東峰先輩だった。東峰先輩は、突如として向けられた敵意を怯むことなく見詰め返す。
バレーを拒みたくなる程の恐怖を与えられた相手から、コートに立つ度に立ちはだかる壁から、
目を逸らさず、見つめ返した。
その姿に、私は目が離せなかった。
西谷先輩や皆も、東峰先輩の様子に息を飲む。