第8章 こんな夜じゃなきゃ
『ていうか、俺より瀬戸に電話すれば?』
「はぁっ?!」
欠伸を噛み殺した研磨の声から、突如として瀬戸の名前が放り込まれた。思わず素で驚いてしまう。
『クロさ、あの合宿からどうなの?』
「ど、どうとは…」
ドギマギとしている俺の心境を知ってか知らずか、研磨はどことなく生き生きとした調子で問い掛ける。
『瀬戸と。どうなの?あれから連絡とってるの?』
「あー…最初の頃は他愛無い会話ちょっとしてたけど、今はそんな…」
メール交換して暫くは、『今日の昼ラーメン食べた。うぇーい』とか、『夜久の身長が子どもマネキンとほぼ変わらないんだけどwww』と死んだ目でマネキンと並ぶ夜久の写真を送ったり。
本当に大した話はしていない。でもメールをする事に久しぶりにワクワクして楽しかった。
しかし、部活や学業で忙しくなって携帯を弄る暇が無くなり、自然とメールもしなくなってしまった。更に、会話を途切れさせたはこちら側で、以前のメールから期間も空き、何となく気まずくなっていたのだ。
『どうせ、途中メール止めたから気まずくなったとか、しつこくメールして嫌われたくないとかでしょ?』
「ゔっ…」
『俺にはどうでも良いことも めちゃくちゃメールしてくるのに。』
「ヴッッ……」
『図星なんだ。まぁ、“メールを続ける”って事が目的になってちゃうよりは良いと思うけどね。それだとお互い疲れちゃうから…』
さらっとまるっと全部お見通しな研磨さんはグサグサと核心を突いてきた。恐ろしい子だ。やっぱり現代っ子の意見は説得力があるなぁと感心してしまう。俺も歳かな…。
研磨はクア〜と猫のような欠伸を零して続ける。
『でも、時々話すぶんにはいいでしょ。瀬戸だって嫌じゃないだろうし。』
「う、うん。まぁ多分…」
『こんな機会なんだし、試しに電話でもしてみれば?このままだと余計気まずくなるんじゃない?』
それともクロはこのままで良いの?と、静謐な声が見透かしたように問い掛ける。確かに研磨の言う通りだった。