第1章 瞳の先
「瀬戸…。一体どうして、ん?」
「?」
日向の紡いでいた言葉が途中で途切れ、視線が他へ移る。私も自然とその方へ移る。
小柄な少年が制服の上着を肩に引っ掛けながら体育館へと入って来ていた。日向より小さい男子は高校で初めて見た。その身長と同じくらい前髪のメッシュが目を惹く。凄い似合ってるので不思議だ。
超イカしてる。
その少年は澄んだ瞳でコートを見詰めていた。何故か私はその瞳に身体が震えた。武者震いに似た感覚だ。
どうやら少年は影山さんを見ているようだった。影山さんがボールを宙高く放った。宙を舞うボールを目で追いながら初動を始める。そして丁度良い位置に来た所で影山さんは跳躍すると、腕を振り強烈なサーブを決める。
少年は向かいのコートへ移動していた。
「「「!?」」」
突然の行動に、私だけでなく影山さんも日向も面食らっ
ていた。少年は影山さんの打ったボールを見詰める。
少年は静かに両腕構えた。
ドッ────────……
耳を疑った。影山さんのサーブは途轍もない剛速球だった。私は当然鈍った大きな音がすると予想していた。しかし、彼のレシーブは、ボールに乗った勢いや回転も全て殺している。そのため恐ろしい程に静かな音。
まるで今の出来事が、それぞれ違う映像を切り取って繋げた不自然な映像のように思えた。それほどまで信じられないことだった。愕然とする私達を知ってか知らずか少年は感嘆の声を上げる。
「おおっ───!すっげぇサーブじゃねーか!!すげえ奴入ってきたなぁ!!」
少年はコートを出て投げ捨てた上着を拾う。影山さんはポカンとした顔でこちらへ歩いてくる。影山さん口開いてますよ。って言いたいけどあえて言わない。面白いから。
「おぉ~~~~~~!!ノヤっさぁ~~~~~ん!!」
「お────っ!龍────ッッ!!」
体育館の扉からジャージを纏った三人の男子生徒が入ってきていた。坊主の人は喜び勇んでレシーブをした少年に駆け寄る。黒髪の人と灰髪の人も彼を見ると花が咲いた様な笑みを浮かべて声を揃えた。
「「西谷ッ!!」」
「チワ────ス!!」
完全に私達は置いてけぼりを食らっていた。特に私。
ただ、練習試合で見かけた人達なのは分かった。西谷と呼ばれた彼一人を除いて。黒髪の人は私達に気付くと声をかけてきた。