第8章 こんな夜じゃなきゃ
黒尾さんは意地が悪いし、性格が悪い。
でも時たま 優しくて良い人だ。
そんな彼は、不器用な私を助けてくれる。
「では、おやすみなさい。黒尾さん」
『おやすみ、瀬戸 』
電話を切ったのち、ベッドに背中から落ちていく。カーテンの隙間から差し込む月の光は、私の顔を照らす。思わず目を細めてしまう程に輝く月は、星一つ無い夜空に美しい。
次第に瞼が瞬きを繰り返し、視界が霞み始める。
その時ふと気付く。胸の苦しさが晴れ、不安が消えていることに。「何だかよく眠れそうだ」と、呑気なことを思いながら睡魔に身を任せる。
───久しぶりに夜が怖くなかったことには、気付かないまま。