第8章 こんな夜じゃなきゃ
第8章『こんな夜じゃなきゃ』
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糸の切れた操り人形の如く倒れ込む私を優しく受け止めてくれるのは、現代社会の母“おふとん”様その人である。
インターハイ予選の前日である今日、今まで以上の緊張感の中で練習が展開された。各々の思いが交錯し擦れ合い、お互いがお互いの顔色を伺うようなプレイになり、皆思うように体が動かないでいた。
しかし、武田先生の『程良い緊張を持ちつつ、いつも通りを忘れないように』という言葉で、選手のみんなは肩が軽くなったように少しずついつもの調子を取り戻し始めた。
私以外は。
「はぁ…」
月明かりが差す暗い部屋の中、深い溜息が漂って消えた。明日に備え、いつもよりも早く食事と風呂を済ませて部屋に来た。
しかし、私は一向に寝る気にはなれなかった。理由は明確。明日のIH予選のことで頭がいっぱいなのだ。
寝返りを打ち天井を向く。だがどうも座りが悪く結局また横を向いた。
私は今までバレーというものに、チームの1員として存在してきた。補欠も経験はしたが、『次こそは役に立つ』『あの場合私ならどう動くか』など選手の立場でしか考えて来なかった。
───マネージャーとしてみんなに何が出来るか、何をすべきなのか、分からない。
不安が渦を巻いて私を追い立てる。ざわざわと波立つ心に眠気は削がれていく。
勿論自分の“仕事”は分かっている。でも“それだけ”ではダメなのだ。
明日の1回戦、烏野は常波と当たる。そして同ブロックには因縁の“鉄壁”である伊達工、そしてあの──青葉城西高校。勝ち抜いていけば、避けられない相手達だ。
そんな数々の敵達に立ち塞がられる仲間に、私は何が出来るのだろう。一緒にコートに立って戦うなんてことは出来ない。
──それが出来れば、どんなに良いだろうとは思うけれど。