第7章 おかしな烏野高校排球部
『他でも無いあなただから』
* * *
「ね~え~。伊鶴~」
「あー?なーにー?」
後ろの席の△△が私の背中をつんつんと突いて来た。私は教科書類を鞄に詰め込んでいる最中だった為に、適当な返事になってしまった。
終礼も済み、クラスメイト達は各々の放課後を謳歌する為に動いている。私はこれから部活に向かうところだが、△△は部活の始まる時間までここで渋っているのが常である。
「明日の国総さ~、ワークの宿題あんじゃん?」
「うん」
「やってくる?」
「一応ね」
「写させて」
「あほう。あれ答えあるんだからそれ写せばいいじゃん」
呆れつつ鞄のチャックを閉め、後ろの席へと顔を向ける。△△は唸りながら机に突っ伏し、腕を伸ばしてぐでんと脱力させた。
「だって答え丸写ししちゃうとバレるじゃん」
「いや私と答え一緒でもダメっしょ」
△△はちぇーと唇を尖らせて頬杖を突き、不服から細めた目を廊下側へと向けた。すると、一瞬で彼女の眼は驚愕に満ちる。
「ちょ、ちょっ、ちょいちょいアンタアンタ…!!」
「何じゃあ母さ~ん。面白いモンでもあったかい」
「別に昼ドラごっこじゃないから。ノリどころが謎で困るんだけどこの人。 じゃなくてッ!!ちょっと廊下見ろ廊下!!」
「廊下ぁ~~……? ッ?!」
△△に促されるまま廊下を見ると、私は声にならない声を上げた。私の膝から、重厚な重さを孕んだ鞄が落ちて鈍った音を立てる。
廊下には、不機嫌そうな顔つきでどこかを見詰める影山さんが佇んでいた。
「顔こわっ……」
△△、それ壮大なブーメランだから。お前もその目つきの悪さ馬鹿に出来ないぞ。