第7章 おかしな烏野高校排球部
『三十六計隠すに如かず』
* * *
「昼ッ─────!!」
主将の声で昼休憩の始まりが告げられる。皆の緊張の糸が緩むのが一目で見て取れる。最近の練習は常に緊張感が漂っている。それこそ、咳一つでもすれば睨みつけられるのではないかという程に。しかし、休息時間となればたちまちお腹を空かせた男子高校生になるのだ。
「腹減ったぁ~~~!!」
「飯だ飯ッ───────!!」
皆の楽し気な声に思わず頬が綻ぶ。真剣にバレーと向き合う皆も好きだが、仲良く騒ぐ皆も好きだ。
「伊鶴ちゃーん。ご飯食べよー」
「はーい」
こちらに手を振る潔子先輩に呼ばれ、カバンを引っ掴んで潔子先輩の元へと歩いて行く。潔子先輩は体育館の壁に背を預けて座っていた。その太腿の上には薄水色の布に包まれた弁当箱が鎮座している。潔子先輩は私を見上げて二コリと微笑む。
「待ってたよ、一緒に食べよ」
可愛過ぎかよ…。
この笑顔だけでお腹いっぱいなんですけど。もう弁当とか要らない。しかし、母の愛情たっぷりな弁当を残すことは出来ない。潔子先輩の女神スマイルを拝みつつ、バックのジッパーを引き開ける。
……ん?
無い。弁当が、無い。
無いッ……!!
無いッッ!!!!!(動揺による語彙力の低下)