第6章 手に手をとって
不意に黒尾の携帯が再びメールの受信を告げる。予想外の事に黒尾と研磨は目を見開くが、誰からだろうと気になりつつ携帯を操作する。
すると、再度伊鶴からのメールの送信であった。
「えっ、何でアイツから?更なる追い打ち?」
「かもね」
警戒する黒尾に対し、研磨は半ば面白がっていた。ですよねーと思いつつ黒尾は携帯を操作し、受信メールを開く。
『件名:そんな黒尾さんですけど
本文:相談乗ってくれるって言ってくれてありがとうございます。メールアドレス教えてくれたの、とても嬉しかったです。
黒尾さんのこと、頼りにさせてもらいますね』
一瞬黒尾は、息を忘れた。
想定外の言葉に、黒尾は目を見開く。研磨も届いたメールを読み目を見開くが、黒尾を一瞥し、すぐさま携帯を覗き込む自身の頭を引っ込める。
黒尾は幾度も幾度も同じ文章に視線を滑らせた。繰り返し読み続け、次第にこのメールが夢では無いことを実感する。
胸中に一つの感情が溢れ返り、それでも湧き続けて仕方がなかった。黒尾は震える唇を噛み締め、両の瞳から溢れ返りそうなそれを堪えるように携帯を強く握り締めた。
「なあ…研磨」
「何?クロ」
「俺って意外と単純なんだなぁ…」
研磨は携帯画面を滑らせる手を止め、黒尾の顔を見やる。その表情に、研磨は少し驚愕を浮かべるが、ゆっくりと聖母のように温かな微笑みへと変わる。
「うん、そうみたいだね」
そう答えると、研磨は黙って黒尾へ自身のタオルを差し出した。
「ほら、携帯濡れちゃうよ」
「ん…」
ホームに差し込んで来た柔らかな太陽の陽は、彼らを照らし、優しく包み込む。
薄暗かったホームは、もうどこにもなくなっていた。