第6章 手に手をとって
「……上手く…」
「?」
「上手く、笑えないんです」
「…何でだ?」
ポツリと呟いた言葉に、黒尾さんは真剣さ含んだ声音で優しく問い掛ける。私は少し俯き、足元の石を軽く蹴る。
「私、自分の笑顔、あんま自信無いんです。変な笑顔じゃないかとか、凄い不安になって…。女の子の前だと、自然に笑えるんですけど…男の人だと、全然ダメで…」
男の人の前だと、自然と頬が凝固し上手く動かない。まるで自分の顔じゃないかの様な錯覚を覚える程に。いくら頑張ってみても引き攣ったような不完全な笑顔しか作れず、余計に自信を失ってしまった。いっそそんな笑顔ならしない方が良いと諦めた。今も、そのままだ。
「相手にも、嫌な思いさせてるのは、凄く分かるんですけど、どうしようもなくて、ど、どうしたら良いか分からなくて…。それで、どんどん、相手に嫌な思いさせてるばっかりで…私、どうしたら、」
「そんなことねぇって」
黒尾さんはパンと私の背中を軽く叩く。驚いて顔を上げるといつもの不敵な笑みを浮かべていた。
「お前自分に自信持てよな?自信持ち過ぎもそりゃダメだけどさ、お前は持たなさ過ぎ。良いか?お前はさ…あんま詳しく言うのも恥ずいから言わないけどさ、お前良いヤツだから!だから今烏野の奴らお前に夢中になってんだろーが!」
「!」
そう面と向かって言われると改めて照れる。確かに、みんなが私を異性と見てくれるのは、私が空っぽな人間では無いという一つの証拠でもあるのだろう。…うん、やっぱ照れる。