第5章 猫は鴉へ爪を突き刺す
私の間の抜けた声に、黒尾さんもこちらに目を向ける。私の腕を引いた人物を黒尾さんは一瞥すると、にやっと唇を歪めた。
「瀬戸、貸せ。持ってく」
そこに居たのは、影山さんだった。
「か、影山さん……」
「ほら、瀬戸貸せ。良いから」
私の右手からパイプ椅子を奪うと、私のその空いた手におもむろに影山さんは手を伸ばして来る。
「───────えっ?」
影山さんが私の手を、握り締めた。
瞬く間に私の顔は火がついたように熱くなった。頭の中は真っ白になり、目の前が火花が散ってるかのようにチカチカする。そして私の手を包む体温に顔の熱さは上昇する一方だ。影山さんのこの行動に、黒尾さんの笑みは一層深まる。
「ふうん、やるね~~~…怖い怖い」
「“怖い”のもお互い様っスよ」
無表情でそう静かに言い放つと、影山さんは私の手を引き用具室へと歩き出した。何が何やら状況は掴めないが、私はじっと影山さんと繋いでいる手と手を見詰める。
影山さんは無言で黙々と歩いているが、優しく私の手を握り締める影山さんの手を何だかくすぐったく思い、
───────私はその手を、強く握り返した。