第5章 猫は鴉へ爪を突き刺す
第5章 『猫は鴉へ爪を突き刺す』
* * *
「ありゃあ…ダメだ」
「えっ?」
猫又監督は苦渋の声を上げる。その言葉に、山本さんは疑問符を浮かべる。
「ありゃあ、とんでもねえバケモノだ」
恐れた表情を浮かべる猫又監督に、夜久さんは問い掛ける。
「10番ですか」
「10番の動きも変人じみてるが、セッターの方だ。スパイカーの最高打点への最速のトス…。針の穴を通すコントロールだ」
猫又監督は影山さんについて、まるで御伽噺を語るかのように綴った。それ程までに影山さんの才能を高く評価しているという事だ。
「ただ、誰にでも通用するトスじゃない」
「!」
私は驚いて猫又監督へ顔を向けた。
「トスに絶対的な信頼を持って飛び込んでくるスパイカーにしか上げられないトスだ」
「…!」
凄い。表面的な事だけでなく、内面、つまりは精神面の事まで見抜いている。私が初めて日向と影山さんの速攻を見た時は、ただ純粋に二人を凄いとしか思えなかったし、二人が互いをどう思っているかも分からなかった。
二人の関係は、入部して初めて話を聞いたのだ。それを、猫又監督は今までの試合の中だけで見抜いた。この人も、それこそ“天才”なのではないのだろうか。
「違うか瀬戸ちゃん?」
「…その通りです。日向、いえ10番の彼は、9番の彼に誰よりも信頼を寄せている。だから、あんな風に飛べるんです」
夜久さんは唖然としたように固まる。猫又監督は苦笑を浮かべ、フォローするように言葉を並べる。
「しょうがねぇ。天才はしょうがねぇ…が」
猫又監督は瞼を開く。猫のような獰猛な瞳が姿を現す。思わず背筋が強張るのを感じる。
「─────天才が一人混じったところで、それだけじゃ勝てやしないのさ」
私は目を見開き、横目で監督を見る。監督の視線は孤爪さんを見据える。孤爪さんは視線を逸らし、おずおずと口を開く。