第4章 猫と鴉は再び兵刃を交える
* * *
5月6日午前8時50分
烏野総合運動公園 球技場
張り詰めた空気が肌を刺す。皆の表情は心なしか強張っているように感じる。静寂が辺りを漂い、私達の足音がやけに響いているような錯覚に陥る。
「…先生よ」
「…ハイ」
鳥養コーチが神妙な面持ちで武田先生に声を掛ける。先生も強張った表情で返答する。やはり鳥養コーチも緊張しているのだろうか。
「俺 タバコ臭くねえかな?湿るくらいにはファブリーズして来たんだけど」
……。
「…大丈夫!ラベンダーの香りですよ!」
先生、もっと他に言うべきことあるでしょう。
「無香料にすべきだったか…」
コーチは何を悔いているんですか。ていうか湿るくらいって掛け過ぎですラベンダー臭いですよそれ。じゃなくて。神妙な顔はファブリーズ問題だったのかよ。何か重い事言うのかと身構えちゃったじゃないか。そのおかげである程度緊張解れましたけど。
「! 集合!!!」
不意に主将が声を張り上げ、召集をかける。その一声に皆駆け出し始める。前方には目を引く“真っ赤”なジャージを纏った選手達が一列に整列していた。皆はその列の前に並ぶ。
あれが、音駒───。
音駒の選手達に視線を向けると、私は一瞬で唖然とする。そして意図せず口から驚愕の声が滑り出てしまう。
「「あ゛っ!!?」」
それは勿論、参列していた日向も例外ではなく、私と声を揃えてしまった。声を上げてしまった原因は、音駒の参列者の中にあった。
主将と日向の、目の前の彼ら。
───鶏冠の様な黒髪と、中途半端だが美しく輝く金髪が私と日向の反応を愉快だとでも言うかのように風に揺れた。