第7章 優しさを君に
お気に入りのラノベを片手に廊下を歩き、窓の外の突然降りだした雨を睨みつけた。
せっかくの時間が台無しになった。
そんな事を思いながら視線を真っ直ぐ進行方向へ移すと、向こうからはよく知った人物が歩いて来ていた。
如何にも重そうな箱を両手で抱えて、その足取りは危なっかしくて仕方が無い。
すぐ近くにあった印刷室へオレは入り込んでその人物が通りかかるのを待った。
印刷室の磨りガラス越しにだって分かるアイツのシルエット。
そのシルエットが通り過ぎる直前にドアを少しだけ開けて腕を掴むと、オレはソイツを引き込んだ。
「キャ…ッ。」
驚きにも似た小さな悲鳴にオレは顔を鼻先まで近付けると口を塞いだ。
「シーッ…オレだよ。センセー。」
不安と驚きに満ちていたの瞳が安心の色を灯した。
塞いでいた手を離すと、の両手を塞いでいた箱を取り上げて机の上に置く。
「もう!黛クン!ビックリするじゃない!」
「ククク…確かに。驚いたアンタの顔は笑えた。」
「酷い。」と言いながら頬を膨らますその仕草が歳上なんて思え無いくらいに可愛い。
「んで?コレ何?」
「それはね、次から始まる授業で使う資料…かな。」
「ふ〜ん。」
「黛クンスタメンになったんでしょう?白金監督が仰ってたから。良かったね。」
嬉しそうに笑うコイツ…ムカつく…けど可愛い。
「な〜に嬉しそうな顔してんだよ。つかオマエ顧問だろ。」
「そうそう!私顧問だった!だから、お弁当作って来ても怪しまれたりしないよね?」
一応この人センセーなんだけど、この抜けた感じにオレはどうしようもなく不安を感じる。
「そーゆーのってさ…みんなの分作んなきゃイケナイんじゃねーの?」
「そっか。」なんて今更ながらの納得をする辺り大丈夫か?
「つーか、ソレはダメ。他のヤツにセンセーの手料理とか食わせたくねーし。アンタ鈍いから心配だわ。」
ズイっと顔を寄せると後退りするを壁際まで追い込むのは簡単過ぎる。
その行く手を阻む様にして顔の横で両手をつく。
“アンタはオレのもんだろ。”
唇が触れるか触れないかのギリギリで囁いてからの口を塞ぐ。
顔が真っ赤になっているを確認してオレは机の上の箱を手に持った。
「こーゆーのは男子生徒に頼めよ。」
「ありがと。」恥ずかしそうに語尾を切ったの声がした。