第6章 ハナミズキ 〜after EP〜
*episode2 Chihiro Mayuzumi*
テスト期間中の教室は静かだ。
オレは2年の教室でラノベを読んでいる。
3年のオレが2年の教室に居るのには理由がある。
オレの目の前でひたすら机に向き合っているコイツが「勉強を見て欲しい」…と。
「?」
「ん〜?」
「今度、試合見に来いよ。」
初めて誘った試合観戦。帝光時代の6人目は最早旧型で、
赤司はオレを進化系プロトタイプとして考えているらしい。
“影”の役割を果たす意味合いでは旧型との違いは無い訳だが、
そのせいでオレのプレーがメンバー以外に認識される事はまず無い。
だから今までを試合に誘った事はなかった。
けど、コイツなら…と思えたから、オレは誘ってみたがその事がには意外だったらしい。
「え?」
ノートに走らせていたペンが止まってオレを見つめているのはなんとなく雰囲気で分かった。
「厳密に言えば…覗きに来い。どうで会場は隣だろーが。」
もちろん、女子バスケ部のマネージャーであるコイツもインターハイ予選で忙しいのは分かってる。
「それとも…。」と一旦言葉を切ったオレはラノベを静かに閉じてを真っ直ぐに見つめる。
「練習姿だけでお前は満足なのかよ?」
少しイジワルな言葉を投げてみる。
「ま…千尋がそんな風に誘ってくれるの珍しいから。驚いただけだもん!」
また“黛”って言いかけたな。
「他のヤツはダメでも、なら見つけられんだろ…違うか?」
オレのプレースタイルがどんなモノか。コイツは知らない。
コートは隣でも『試合』のオレを見た事は無いからだ。
「千尋は自分で思っている程“薄く”はないよ。」
そう言ってクスクス笑うコイツを見てると、全てがどうでも良く思えてくるから不思議だ。
どうでも良くというのは自棄と言う意味ではなく、ポジティブになれるっつーかそんな感じ。
「なぁ、。今度“黛”って言ったら罰金じゃなかったっけ?」
「えっ!言ってないよ!」
「あ?バレてねーとでも思ってたのかよ?」
手からそっとペンを引き抜いて手のひらを重ね合わせると恋人繋ぎの様にギュッと握る。
「千尋?」
「可愛い嘘は許してやる。けど、コレはガマンできねーから。」
二人きりの教室で二つの影がそっと重なった。
「好きだ。」
そしてもう一度キスをした。