第6章 ハナミズキ 〜after EP〜
*episode1 Eikichi Nebuya*
の月命日。
俺はいつも一輪の花を部屋に飾る事にしている。
墓参りには行けそうもない俺のせめてもの思いの形。
桜は散り、入れ替わる様にして景色に彩りを添えるのはハナミズキと呼ばれる花。
白いハナミズキとピンクのハナミズキ。
俺はピンクの方が気に入っている。その優しい色合いがアイツの笑顔を見ている様で励みになる。
桜の様に芳香は強くないがなんとなく目を奪われる美しさがある。
「永チャン!」
葉山に声を掛けられる。
「ああ。」
「ちょっと!アンタ声大きいのよ!」
相変わらず葉山は実渕に怒られている様だ。
「今日は体育館の緊急メンテで練習無しだって。」
「そうか。」
赤司やコイツ等はトレーニングルームで自主練に励むんだろうが、
今日位は早く帰って花屋に行こう…そんな事を考えていた。
放課後、トレーニングルームに向かう実渕と遭遇した。
「あら、アンタ今日はトレーニングしないの?」
「ああ、今日はちょっとな。」
言葉を濁したつもりだったが、実渕はその辺察しが良い。
「月命日なんでしょ? 気持ちは分かるけど、アンタもそろそろ前向きになりなさいよ。
そんなんじゃ応援してくれてたあの子に申し訳がたたないでしょう?
それに…らしくない表情してるアンタ見てるの辛いのよ。
筋肉の事しか頭にないと思っていたのに、なんて切なそうなカオしてんのよ!」
実渕の細っこい腕からは想像がつかない程の強い力で背中を叩かれた。
俺の背中を叩いて満足したのか実渕は鼻歌を歌いながらトレーニングルームへ歩き出した。
「分かってるよ。」実渕の背中に一つ呟いて俺は花屋へ向かった。
店先に並んだ花を眺めては何にしようかと悩む。
そんな時、白い花に目が止まった。
その花を手に取ろうと手を伸ばした時、同じく花に手を伸ばした他の客と指先が触れた。
「すみません…。」
二人の声が重なり、相手の姿を見て俺は一瞬息を飲んだ。
「…?」
俺と同じ制服を着たその女は首を傾げた。
「バスケ部の根武谷さん。」
「どうして俺を?」
「有名人ですもん。お花、好きなんですか?」
「あ…いや…その…」
口籠る俺を気にする事も無く彼女は言葉を続けた。
「花言葉は清浄だそうです。清楚な雰囲気にピッタリですよね。」
花を見つめて微笑む彼女の横顔に見惚れた瞬間だった。