第1章 そして…儚さを知る
桜の蕾が一つ…また一つ…。
開花するにつれて俺は余裕をなくして行った。
中学時代とは比べ物にならない位の練習量はその過密さについていくのがやっと。
時々送られてくるからのメールも一言二言での返信が常。
そんな中で迎えた休みにはすかさずメールを送ってきた。
『永吉? 寝てる?』
『いいや。』
『明日、桜見に行こうよ!!』
『は? 桜なんていつも見てるじゃねーか。』
『いいじゃん。偶には息抜きで!』
『通学路の桜並木でジューブンだ。寝る。じゃあな。』
朝練がない時は一緒に登校する。
満開の桜並木はわざわざ花見をする必要も無いくらい見事だ。
「お花見に行けたら良いね。」
そう言って笑った。
「だからどんだけ花見してーんだよ。」と心の中でツッコミながらも、
俺は曖昧な返事しかしなかった。
それから幾度となく花見に誘われはしたが、
いつもはっきり返事をしないまま。
そんな時だった。
深夜に鳴り響くサイレン。
すぐ近くで止まった救急車は明らかに寮の入り口の真ん前。
俺が窓の外を見ると、丁度出てきた救急隊員。
ストレッチャーに乗せられて居た人物は女子寮の生徒だった。