第5章 何度でも
何も無くても先生が居てくれればそれだけで十分で。
3歳から始めた習い事のバイオリンの時間はいつも先生を思って弾いた。
ピアノの時間は、自分の奏でる音色が好きになれなくて。
何度も先生のピアノを思い出した。
二人で過ごす日々を重ねて…季節が変わる度に、
先生はボクに花の名前を教えてくれた。
「ねぇ、センセイ。」
「ん?」
「やくそく…おぼえてる?」
「約束?」
「そう。ボクとセンセイのやくそく。」
「覚えてるよ。」
優しく微笑んだ先生の声が心を温かくしていく。
“何度生まれ変わっても、僕達は出逢える。”
あの日の夢の中の僕は確かに言った。
“私も。愛してる。”
先生からの言葉を思い出していた。
あの夢の中のボク達は結ばれたんだろうか?
前世の記憶なんだろうか?
だとしたら…今が現世でボクと先生は生まれ変わり?
答えなど見つからない疑問を止めどなく考えるボク。
「征十郎。」
その言葉は確実に紡がれたのに。
ボクはソレを聞き取れるだけの記憶を留めてなどいなくて。
前髪を優しく撫ぜられる心地良さにボクは深い眠りに落ちていった。