第3章 桜雨
コンコン…
控えめにノックを二つ鳴らすと部屋の主はドアを開けてくれた。
「どうぞ。」
「お招きありがとう。」
征ちゃんの部屋はアタシの部屋より少し広いのよね。
でも…不思議よね。
一人で過ごすこの部屋になんで2人掛けのソファーなのかしら。
「校内の者と言えど客人を床に座らせるのは失礼だろう?」
ティーポットとカップを持って現れた征ちゃん。
何も言ってないのに、まるで聞こえていた様に的確にアタシの疑問へ
返答をした。
「やぁね。心の声を聞かないでよ。」
練習中には見せることのない穏やかな表情。
フッ…と口元を緩めた征ちゃんは男のアタシでもハッとする程綺麗。
「本心は隠せないという事だ。時として…お前は直ぐ顔に出る。
夜叉の称号は返上だな。」
「やぁね…征ちゃんたら。」
「まぁ、正確にはヤクシャだが。」
分かってるわよ。
夜叉はインド神話で男をヤクシャ、女をヤクシーやヤクシニーと呼ぶのよね。
「人を食らう鬼神である反面、恩恵をもたらす存在。
ならば、僕にとっては後者である事を望むが…ね。玲央。」
相変わらずの博識家な上に完璧主義なんて。
この人は何時、気を緩めるのかしら。
「僕は身構えることなどしない。これが自然体だ。案ずるな。」
カップの中の紅茶を眺めながら、征ちゃんはまたもアタシの心を読んだ。