第3章 桜雨
夕食を終えて、机に向かう時。
何時もの紅茶と今日は…クッキー。
この前買ったばかりの参考書を手に、教科書とノートへ視線を移す。
ふと…思い出したさんの後ろ姿。
地面に落ちた傘を拾い上げる事もせずに、
雨に降られている後ろ姿。
乾いている時は、風に揺られていた毛束も雨に濡れて
綺麗な項に張り付くように纏わりついていた。
その後ろ姿が印象的で、
それを思うとあの日何があったのかが気になってくるのよね。
クッキーを一つ…摘み上げると自然と出た溜め息。
(らしくないわね。)
普段の自分とはかけ離れたその行為に苦笑いしか出ない。
その時、携帯が震えだした。
『征ちゃん』
表示されたその名前。
メールの新着を知らせる画面が点滅している。
「征ちゃんからメールなんて、珍しいわね。」
携帯を手にとって、内容を確認すれば更に驚きの内容。
『玲央。美味しい茶葉が手に入ったんだが飲みに来ないか?』
征ちゃんからのこう言う“お誘いメール”は珍しい。
大抵は、電話で最低限の事を話して終わってしまう。
だけど最後の一文に納得したのよね。
『お茶請けはないが。』
そう言う事ね…。
征ちゃんが自分でお菓子を買うはずも無い。
アタシに持参しろと…。
アタシは作っておいたシナモンクッキーを持って
征ちゃんの部屋へ向かった。