第1章 そして…儚さを知る
の病室の前まで来ると何故か慌ただしく出入りしている。
病室に足を踏み入れるとそこにはベッドサイドで泣いているの両親が居た。
「え…?」
俺に気付いたの父親が招き入れてくれる。
「たった今…穏やかに目を閉じたよ。」
言われている意味が分からなかった。
あまりに衝撃的な現実は時として、脳が理解の拒否反応を示すらしい。
「え…だって、さっき回復傾向にあるって…。」
「……。」
俺の言葉に二人とも無言だった。
花見をしようと約束をした。
今年がダメでも来年…毎年…この先ずっと。
そう約束を交わしてから1時間と経っていない。
「な…んで…一緒に桜見ようって約束したじゃねーかっ!!!」
堪らず叫んだ俺の言葉が虚しく響く病室。
青白い顔。
細い腕。
入学式の日に繋いだ手の感触を忘れたくなくて俺はもう一度の手をとる。
「おい…起きろ! 寝てんじゃねーぞ!早く起きねぇと桜散ってしまうだろーが!
未だ残ってるよ。だから直ぐ見に行くぞ!!」
俺の涙はポタポタと落ちてはシーツに吸い込んでいく。
少しずつ広がっていくシーツの染みがそのうち全てを濡らしてしまうんじゃないかって程に、
とめどなく流れる涙。
「…。」
大好きなヤツの名前はもう声にならなかった。