第1章 そして…儚さを知る
辺りの景色はピンク色で染まっている。
桜が満開を迎えあちこちで花見客で賑わう京都には桜の名所が点在している。
今年も綺麗に咲きそろった満開の桜並木をアイツにも見せてやりたかったな…と
通学路の桜並木を見上げる俺。
“永吉…。”
遠くで呼ぶ声がする。
それは何時も側にいてくれたアイツの声。
重い瞼を上げると柔らかな風に揺られてカサカサと音立てる葉っぱの
隙間から溢れる陽射し。
キラキラと反射するその新緑はこれからまた短い命を紡いでいく。
制服のポケットから携帯を取り出す。
絶対に消すことが出来ないメールフォルダ。
その中でも最重要メールとして保護してある。
あの日の夜…送られて来たメール。
『永吉、大好きだよ。』
「ああ、俺もだ。」
届く事はない一言を呟くと、今度はアイツらの声が聞こえてきた。
「永ちゃん!! 」
「ちょっと、アンタ何時まで寝てんのよ。征ちゃんからお呼びがかかってたの忘れた?」
「ワリー。今行く。」
何処からか舞い降りた桜の花びら。
掌を差し出せば、ふわっと止まった。
“永吉、大好きだよ。”
アイツの声が聞こえた気がした。