第1章 そして…儚さを知る
練習の合間を縫っての見舞いに通った。
随分と痩せてしまった様に見える細い腕がなんだか痛々しい。
それでも、回復傾向にあるという朗報に俺は胸を撫で下ろしていた。
「じゃ、また来るな。」
「うん。」
立ち上がろうとするとジャケットにズンっとした重み。
振り返るとがジャケットの裾を引っ張っていた。
「どうした?」
「桜…もう…散った?」
「そーだな。もう少し残ってるけどな。来年もあるんだし。
今年はダメでもこれからは毎年見りゃいいだろ。」
そっと前髪を撫ぜるとは安心した様に微笑んだ。
その力ない微笑みが、はらはらと舞い散る桜の花びらと似てる気がした。
「永吉。あまり無理しないでね。」
「ああ。」
尚も俺の事を気遣う。
珍しく、病室からの足取りは軽かった。
何時もの桜並木は見るも無残に桜は散ってしまって、
その名残を惜しむかの様に僅かに咲いている程度。
殆どが葉桜になりつつある樹々は、新緑に覆われようとしている。
何処からか舞い降りてきた一枚の花びら。
掌を差し出せば、ふわっと止まった。
“永吉”
に呼ばれた様な気がした。
ドクン…
何故か鼓動が大きくなる。
無性に会いたくなって、俺は病院までの道を駆け出していた。