第22章 【合宿 第五幕】
その夜を境に合宿の間は妙な事になっていた。縁下力と赤葦京治は練習中はお互い知らんぷりを貫いている。しかし、
「何見てんの。」
また夜の事だ。他の奴が寝ている中、力が廊下に座り込んでスマホを眺めている。そこへこれまた木兎や木葉に見つからないよう部屋を抜け出した赤葦がやってきたのである。先日の夜以降、苦労人の2年2人は特に示し合わせた訳でもないのにこうして夜に部屋を抜け出し一緒に話をしていた。大方は力の義妹である美沙の話題で、それというのも赤葦が力に一線を越えさせた少女がどんな奴なのかを聞きたがったからだ。赤葦本人も自認しているとおり大変珍しい話である。
「うちの美沙がライブ配信してるんだ。」
「動画投稿者じゃなかったの。」
「最近スマホで配信も覚えちゃって。」
「技術の発展のおかげなんだろうけどいいんだか悪いんだか。で、大丈夫なのか。」
「する前に俺に連絡させてる。」
「そっちか。」
「オンラインの顔の知らない奴が何言ってくるかわからないから。」
「病気だな。」
よく言われると力は苦笑する。
「というか顔出しの心配は。」
赤葦はもっともな疑問を呈し力は一応気をつけていると答えた。
「配信の時はスマホのフロントカメラに付箋つけてるんだ。」
「考えたな。」
言いながら赤葦は力のスマホを覗き込む。スピーカーから小さくだがハンドルネームままコこと縁下美沙の声が聞こえ、映像なしでサウンドオンリーの配信画面にはコメントが流れていた。
「枠乙って何。」
「枠取りお疲れ様です、の略らしいよ。ここのサービス、一回に配信できるのが30分までって枠があるんだって。続けて配信する度に枠取りしないといけないらしい。」
「さすが詳しいな。」
赤葦は呟き、縁下美沙の声に耳を傾けた。
「あ、皆さん枠乙どーもです。」
ままコこと縁下美沙が言う。たちまちのうちにコメントが入った。
"あれ、まま兄貴はどうしたの"
このコメントを見た瞬間赤葦が力に目をやり、力はわざと目をそらした。