第21章 【合宿 第四幕】
「じゃ、俺戻るから。」
力はごまかし笑いをしながら背中を壁から離し、歩き出そうとした。
「どんな子。」
「え。」
赤葦に突然言われて、力は足を止めて振り返った。赤葦の乏しい表情からは何も読み取れない。
「妹。」
「えと。」
まさかそんな質問をされるとは思わなかった力は戸惑った。
「言えないような子なのか。」
「いや、そんなことはないけど、まさか赤葦君がそういうこと聞くなんて意外で。」
「ごめん、ホントは先に少し聞いた。音駒の黒尾さんが何か君弄りに行ってたのが不思議で。シスコンて聞いたけどさ、そんな風には見えないのにと思ってたんだけど、今聞いたら夜中に電話までしてたのがその妹だっていうから流石に気になった。」
オタクで動画投稿者でスマホ大好きの関西弁などと言うのは憚られる。別に美沙は悪くないし自分も構わないが赤葦が固まったりなどしたら申し訳が立たない。さすがに黙ってれば話は終わるかなと力は思ったが甘かった。
「黒尾さんの話じゃ地味リボンで変な子だって。」
力はあの人は、と思いしかめ面をしそうになる。
「普通の子だよ。」
「でも抱っこしてやるなんて言うんだな。」
赤葦がポツリといい、力は苦笑する。
「どこまで聞いてたんだ。」
「10分前から終わりまで。」
そこまで聞かれていたのに自分は気がつかなかったのか、やれやれと力は困った笑みを浮かべて正直に言った。
「俺より一個下でオタクで動画投稿者でスマホが大好きで関西弁。ついでに外では強がってるけど甘えたの寂しがり。」
「濃いな、本当に変わってる。」
「でもいい子だよ。」
「だけど何で兄妹なのに妹が関西弁なんだ。」
そこも正直に言おうと力は思った。
「本当の妹じゃないんだ。」
赤葦の顔に乏しい中にも驚きの表情が浮かんだ。力にとっては驚かれるのはもはやいつものことである。
「身寄りがなくなったから親が引き取ってきた。で、育ててくれたおばあさんの影響で関西弁。」
「ずいぶんな事情しょってるんだな。」
赤葦は静かに言う。
「うん、俺も正直ビビった。でも実際会ってみたらこの子が妹ならいいかなって。」
「で、シスコンになったのか。血が繋がってないってとこで邪推したくなるんだけど。」
力は違いないと苦笑した。