第21章 【合宿 第四幕】
最後の一文が力の胸に刺さった。まともに付き合いがあるのが男子排球部の面々ばかりの美沙だ、今みんなで遠征に来ている状況では一緒に遊ぶ友達がおらず美術館で何かやっているのでもない限り外に出る事がないのだろう。思っても仕方がないことではあるけれど。
「隙があったらこっちで動画見てみるよ。」
「LTEやろから通信制限には気ぃつけて。」
「お前らしいな。」
兄妹はここで小さく笑いあう。しばらく2人は他愛のない話を続けた。
「ああ、随分遅くなっちゃったな。」
ふと力はスマホの画面をチラ見した。
「ホンマやね。兄さんは明日も早いんちゃう。」
「そうだな。そろそろ行かないと。」
よっと力は腰を上げた。
「兄さん、」
電話の向こうで義妹がふと切なそうに言った。
「大好き。」
力は胸が締め付けられるような心持ちになる。
「俺も大好きだよ、美沙。」
壁に背を預けながら返してやると義妹が息を吸う音が聞こえた。
「ごめんよ、もう行く。」
「うん。」
「帰ったら抱っこしてやるからもうちょい我慢な。」
「うん。お休み。」
「お休み、美沙。」
とても名残惜しくはあったが力はスマホの画面をタップして音声通話を切った。切った後思わず天を仰ぎため息をつく。仲間以外からは存在をしょっちゅう忘れられ、特にこれといったこともない平凡な人生を過ごしていくのだと思っていた。それなのにまさか義理の妹が出来てその子と兄妹の線を踏み越える事になるなんて誰が想像し得ただろうか。そんな風に物思いに耽(ふけ)っていた時だ。
「何やってんの。」
ふいに横から声をかけられ、力はビクーッとなった。振り返れば
「あ、赤葦君っ。」
梟谷の2年セッター、赤葦京治だ。お手洗いにでも行っていたのか、それにしても近づいてきたのに気がつかなかったなんて力としては大失態だ。
「いや、ちょっと電話かけてて。」
「彼女。」
「ちっ、違うよっ。」
赤葦に尋ねられて力は更に慌てる。実質彼女と変わらない関係だがしかしまさか会って日も浅い他校の奴には言えない。
「妹、なんだ。」
ポツリと力は言った。赤葦はへぇ、と言う。
「随分仲が良いんだな。」
「ああ、まぁ。」
力は曖昧な返事しか出来ない。赤葦はそんな力を黙って見つめる。