第21章 【合宿 第四幕】
更にその日の真夜中、宿泊している施設の中での話だ。烏野のチームほとんどが眠っている中で音を立てずに布団から這い出す姿があった。縁下力である。枕元に置いていたスマホを掴み、充電用に繋いでいたmicroUSBケーブルを引っこ抜いている。そうして力はそっと立ち上がり、スマホを半ズボンのポケットに突っ込みながらこっそり部屋を出た。
廊下に出てしばらく歩いた。皆が泊まっている部屋から充分離れたと判断した力はしばし辺りを見回して人の気配がないことを確認して壁に背を預ける。そうしてポケットからスマホを取り出してスリープモードから復帰させた。思うより気がはやっているのかメッセージアプリの場所を探しあぐねてしまう。愛する義妹がアプリを使ってよく使うものを通知領域に登録するという一見不思議な事をしているのはこういうことを見越してなのかもしれない。
何とかメッセージアプリを探し当て連絡先を開く。"美沙"と表示された連絡先を開き、力は無料音声通話のボタンをタップした。待つことしばし。
「しもしも」
わざとネタで応対する義妹の声が聞こえた。
「美沙、ごめんよ、寝てた。」
義妹はううん、と言う。声が甘えたモードになっていた。
「大丈夫、みたいだな。」
「うん、無事にご飯も食してる。」
「まぁそうでないと困るけど。」
「あと、及川さんが岩泉さんにどつかれたてメッセ送ってきたりスタンプいっぱい送ってきた。」
「まだやってるのかあの人は。俺らの状況知ってるくせに。」
「まあまあ兄さん、お友達やから。」
「あの人はどうかすると危ない。」
若干不機嫌になった力の声に慌てたかのように美沙は話を変える。
「それはともかく、そっちも大丈夫そうやね。谷地さんが無事やって教えてくれたけど。」
「うん。凄い人たちと練習出来て充実してるよ。」
「そら良かった。」
きっと美沙は電話の向こうで笑っていると力は思う。
「私もまた動画アップした。」
「こら、ペンタブ握ってて腱鞘炎(けんしょうえん)とかはやめてくれよ。」
「だって作りたかったんやもん。それに特にお出かけする用事もないし。」