第20章 【合宿 第三幕】
「研磨情報によると縁下だと。兄貴が力で妹が美沙。」
「エンノシタチカラ。」
赤葦は呟いて僅(わず)かに吹き出した。
「何か狙ったみたいな名前ですね。」
「苦労してそー。」
「特に黒尾さんみたいなタイプにね。」
「てめ。」
軽く睨む黒尾を無視して赤葦は呟いた。
「名は体を表しますか。しかし、シスコンねぇ。」
「ったく、あんな地味リボンによく入れ込めるこった。」
「リボンなんですか。」
「ブレスレットだけの時もあるらしい。」
「お洒落さんですね。」
「いや兄貴の趣味。」
「どんだけなんです。」
「そもそもな。」
黒尾は言った。
「お前がこんなくだんねえ話ここまで聞くなんて珍しいじゃねえか。一体どうした。」
「さて、どうしてなのか。」
赤葦は首を傾げた。
「まぁ強いて言えばあんな普通目立たないようなタイプが黒尾さんにおちょくられるレベルで入れ込んでる相手というのがどんなのか気になるというところですか。」
「変な女だぜ。」
「おや、縁下君はイカもの食いですか。」
「お前、それ本人の前で言う気か。」
「どうでしょう。」
「おっと、すきあらば言うぞこいつ。」
「黒尾さんに言われたかありませんね。」
人が聞いていないところで言いたい放題言う2人、おかげで縁下力と縁下美沙は何度もくしゃみをする羽目になった。
「縁下さん、大丈夫ですか。」
「大丈夫だよ、山口。でも急に何だろ。」
「花粉症かっ、力っ。」
「うーん、俺もとうとうなっちゃったのかなぁ。」
縁下美沙の方はくしゃみを乱発した挙句、一度ペンタブのペンを取り落とす羽目になっていた。
「誰なんもう。西谷先輩が関東の人らに変なことバラしてへんかったらええけど。というか、兄さん頑張ってるかなぁ。頑張ってるやんな。」
知らぬが仏とはよく言ったものである。
次章へ続く