第20章 【合宿 第三幕】
いつまでも阿呆なことばかりやってられない。練習に次ぐ練習、練習試合に敗れるたびに課されるペナルティ、烏野高校男子排球部はこれでもかと食らいつき、当然縁下力も義妹の美沙のことばかり考えてはいられなかった。だがしかしそんな中でも細かいところに気がつく彼は気になっていた。やはりどこかの隙に誰かがチラチラ見ている気がする。
「あかーし、どーしたー。」
「いえ別に。」
「力、どーしたっ。美沙が心配かっ。」
「違うよ馬鹿、やめろ。またいらない事言われるじゃないか。」
「シス」
「木下、流石に怒るぞ。」
「悪かったってっ。」
そして西谷と木下のおかげで力は余計なことを思い出した。
「しまったな、1人ででかけた時は面白がって路地裏ウロウロするなって言うの忘れた。」
「どんだけだよっ。」
田中に平手突っ込みを食らっているようでは世話はない。
「もー縁下ー。」
更に追い討ちをかけるように菅原が呆れているようでその実面白がっている声音で言った。
「世間を信用しないのも程々にしろよー。」
「す、菅原さん、何を。」
「ん、美沙ちゃん信用できても世間が信用出来ないんだろ。」
いつだったか力が口走った事をまだ覚えていたらしい菅原に力は勘弁してくださいって、と呟く。
「何か見られてる気がするな。」
ここに来て菅原が小さく言った。
「え。」
「何かお前の方見てる人がいる気がする。誰なのかも何でかもわかんないけど。」
「俺何か悪い事しましたかねぇ。」
「それはないと思うけど。あ、もしかして誰か縁下に告りたい人がいたりしてっ。」
「それこそ勘弁してくださいっ。」
力は思わず声を上げ、澤村に縁下までやめてくれよ、と注意されてしまった。
赤葦京治はうっすら感づかれているのを気付きながらすきあらばやはり力の方をチラチラと見ていた。