第19章 【合宿 第二幕】
残念ながら赤葦京治が聞いたシスコンという単語は聞き間違いではなく縁下力はそれ故に内部からも外部からもおちょくられる事態に陥っている訳だが、妹である美沙も大概ブラコンである。直接ブラコンと言われていることもあるにはあるが兄のシスコンぶり(をもう超えている)が目立つので見えにくいだけだ。そのブラコン少女(どころではなくなった)は義兄が遠くへ合宿に行ってしまったので1人過ごすこととなる。
女子の中では唯一の友である谷地も排球部関係者であるから勿論向こうに行ってしまっている。他に友がいないので特に出かける用事もなく、よい展覧会もやっている様子がない。寂しい話だ。しかし物は考えようで流石のブラコンも困るくらいあれこれ言う義兄がいない分少し気楽かもしれない。
という訳で早速こいつはペンタブのペン握って相変わらず下手な絵を描き、新作動画の制作に励んでいた。階段から落とされた事件のおかげで平日のほとんどは義兄の部活が終わる遅い時刻まで学校にいる事になり、明らかに作業できる時間が激減している。それでも一通り宿題やらその他勉強の類を終えたところでルーズリーフに下書きだけしておく辺りは執念のなせる技か。
そして何日も溜め込んだ下書きをスマホで無理矢理撮ってBluetoothでパソコンに転送し、お絵描きソフトに取り込んで美沙は一生懸命なぞりにかかる。
作業に夢中になっている間は良かった。少し疲れて手を止めた時が良くなかった。ふいに切なさが襲ってくる。
「ちょっと寂しいかも。」
薬丸の頃から1人でいることには慣れていた。だがそれは1人でいることが平気という意味ではない。
「でも言うてもしゃあないもんな。」
美沙は独りごちて頭をブルブルと横に振った、仮にも縁下力の妹がそんな事で寂しがってはいけないと心の中で言い聞かせて。