第17章 【外伝 茂庭とエンノシタイモウト】
「結構食べるんだな、細いのに。」
「それよお言われます。同級生とか先輩にはヒョロヒョロや言われるし他所の学校の人まで人の体重聞いて軽いとか言わはるし。」
他所の学校の奴に言われたというのはどういう状況なんだろうと茂庭は思う。
「友達にちっちゃい系可愛いの子がおるんですけど、その子かて細いんですよ、せやけど私ばっかり言われるんです。」
「体格の割には、かなぁ。」
茂庭は遠慮がちに笑って言う。まぁ仕方ないよなとは思った。少女の手首はバレーボールですっかりごつくなった自分の手で握ったら折れそうなくらい華奢だ。少女はむー、と呟いてまたポテトを口に運ぶ。
「ホントよく食べるな。」
「兄さんにバレたら怒られるかもしれへん。運動せえへんのに余計なもん食べたらアカンて、それも油モン。」
「お兄さんがいるの。」
「はい。バレーボールやってまして。」
本能的に茂庭は反応した。
「俺もやってたんだ。部活は引退したけど。」
少女は何と、と小さく言った。
「因みにポジションはどちらで。」
兄とやらから聞いているのだろう、知識ゼロからの質問ではない。
「セッターで一応キャプテンだったんだ。」
「何という重大なお仕事。」
淡々とした言い方だが少女に裏表がなく、感心している事はわかった。
「あの、もしお差し支えなかったらどちらのチームですか。」
意外にも少女は興味を持って聞いてきた。妙に丁寧な言い回しに吹きそうになりながら茂庭は答えた。
「伊達工。」
「あの鉄壁の誉(ほま)れ高い。」
やはり少女の言い方にいちいち吹きそうになる。間違った日本語ではないが何となくお固くて古臭い。
「その、君のお兄さんは。」
「烏野です。確かインハイ予選でそちらと試合したかと。」
茂庭は目を見開いた。一方で考える。試合に出ていない控え選手までいちいち覚えている訳ではないにしろ烏野に少女の兄と思われるようなしかも関西弁らしき選手などいただろうか。
「あ。」
ふと茂庭は鞄を探り、目的のものを引っ張りだした。インハイ予選の時の大会パンフレット、未練がましさの表れな気もしつつ、何となく持ち歩いていたのだ。茂庭はそのパンフレットから烏野高校のページを見つけ、少女の前に置いた。
「お兄さんてどの人。」
少女は黙ってその細い指で示した。