第17章 【外伝 茂庭とエンノシタイモウト】
伊達工業の元バレー部主将、茂庭要にとってそれは色々な偶然が重なった結果の出会いだった。
「うわっ。」
「ふぎゃああっ。」
まずは道端でぶつかったところから始まった。
「ああっ、すみませんっ。」
「いえ、こちらこそ申し訳ないです。」
慌てて言う茂庭に返す少女の言葉は聞きなれないイントネーションに思える。が、疑問に思う暇もなくここでお互いとっとと別れようとした時である。
「あれっ。」
少女が声を上げた。茂庭は何かと思いふと見れば面倒な事になっていた。少女の着ている制服のベストから出ている糸、それが茂庭の着ている制服のブレザーのボタンにひっかかっていたのだ。
「げ、やば、どないしょう。すみませんすみませんすみませんっ。」
ややパニック気味に言う少女、茂庭は大丈夫ですよと落ち着いて言ってやりながら少女が無意識に言ったであろう言葉を聞いておや、と思った。テレビでよく聞くあれだ、関西弁。
「えーと、とりあえずこれどうしようか。」
茂庭はボタンに引っかかった糸を見つめてため息をつく。一体何がどうなったのか糸は指で解くには結構難しい絡まり方をしていた。
「まずはぶった切るとこからでしょうかねぇ。」
「ええっ。」
地味な見た目、大人しそうな雰囲気、あまり変わらない表情からはちょっと想像しにくい過激な表現に茂庭はビビった。
「ぶ、ぶった切るって。」
しかしさっきまでパニック気味だった少女は逆に落ち着いた様子で
「とりあえずお待ちを。」
糸を引っ張りすぎないよう注意しながら鞄をゴソゴソし始めた。いかにも女の子が持ちそうなポーチを取り出し、更にそこからコンパクトを取り出す。何が出てくるのかと茂庭が思わずじっと見つめる中、少女はポーチをしまってコンパクトを開けた。蓋についた鏡と針や糸が見える、どうやら携帯用の裁縫道具らしい。
「よいしょ、と。」
何となく年寄り臭いかけ声を上げながら少女はそこから小さなハサミを取り出した。
「切りますんで動かんといてくださいね。」
茂庭はああともううともつかない声を上げて大人しくする。少女は慎重に出過ぎない程度に糸の根元の方を指で引っ張り、片手に持った小さな裁縫道具のハサミでギリギリ根元の方を切った。