第16章 【喧嘩】
「俺も悪かったよ、八つ当たりして。お前は辛くてもそんなことしないのにな。」
「私もやり過ぎた。兄さんかてそらそういう時あるやろに。」
「うん、お互い気をつけよう。ああそうだ、バレー部のみんなにもお詫びしなきゃ。電話かけまくったんだよな。」
「私も一緒にお詫びに行く。」
「そうだな、そうしよう。」
そうやって兄妹が歩いているうちに父と合流した。
家に帰ってから兄妹は揃って叱られた。まず美沙は夜にスマホも持たずに飛び出した事で今までで一番きつく義父母に叱られ、頼むから突然いなくなったりしないでくれと懇願までされた。
叱られた事より懇願までされてしまった事が美沙としてはかなり堪(こた)え、凹んでしまった。
力は力で心配なのはわかるが野郎でも危ないかもしれないこのご時世に両親の制止を振り切って1人探しに行った事を叱られた。
叱られタイムが終わってから兄妹は妹の部屋で語っていた。
「かなり堪えたな。」
男子排球部の面々に取り急ぎ美沙が見つかった事をメールやメッセージアプリで送りながら力が言った。
「うん。せやけど私、お願いやからいなくならんといてって言われたんが一番辛い。」
「父さん達が言うのもわかるけどな、望んでお前を引き取ったんだから。特に母さんがどうしてもって感じだったし。」
美沙はうん、と頷く。祖母が亡くなってしばらく後に縁下夫妻がやってきた時の事を思い出す。義母からしてみれば親友の娘でしかもその面影がある自分に思うところがあるのかもしれない。
「で、凹んでるとこ悪いけど。」
メールやメッセージを送信し終えた力が呟いた。美沙が首をかしげると
「俺からも、」
力の腕が伸びてくる。
「心配かけてくれたのとまた及川さんに借りを作る羽目にしてくれた罰。」
美沙がちょお待ってというが力は待つ気がないらしい。あっという間に義兄の腕に捕まってしまい、唇を重ねる事になる。流石に苦しかったので美沙はうぐと唸るが力は何度も唇を塞ぐ。