第16章 【喧嘩】
「美沙ちゃんが飛び出したっ。何があったんだよ。」
菅原は声を上げた。
「うっかり八つ当たりして怒らせてしまいまして。しかもスマホ家に置いてってるんです。」
「相当じゃん。でも困ったな、俺も見かけてない。あの子が1人でうち周辺に来るとは思えないしなぁ。」
「他のみんなにも当たったんですけどやっぱりそうなりますよね。すみません、お邪魔しました。」
「いや、縁下も気をつけてな。」
「ありがとうございます。」
力は電話を切って長いため息をつく。何となくわかってはいたものの排球部関係者で美沙を見かけた者はいない。移動しては時折止まり、電話をかけている時も辺りを確認したが義妹らしき姿は全くない。焦りが募る。このご時世だ、美沙に何かあったらどうする。両親と亡くなった美沙の祖母にどう言い訳すればいい。
焦りつつも心当たりには全部連絡したし、流石に一度家に帰った方がいいかと思いだしたところだった。
スマホが振動する。誰かと思えばそこにはまさかの名前が表示されていた。
「はい、縁下です。」
「あ、おにーちゃん。ヤッホー、及川さんだよっ。」
「こんばんは、あの、すみません俺今立て込んでまして」
「とりあえず手短に言うね。」
及川はいつものノリで重大な事を言った。
「おにーちゃんと喧嘩したってべそかいてる動画うp主(うぷぬし)預かってるから引き取りに来て。」
力の心臓が高鳴った。
「はい、美沙ちゃん、おにーちゃんだよ。」
及川は電話を替わったらしい、兄さん、と言う聞きなれたしかしいつもよりかすれた声が聞こえる。
「美沙っ、すぐ行くからなっ。及川さん、場所はどちらですか。」
及川は場所を告げ、力はすぐその方向に向かう。
「ところで動画アップロードしてる人の事をうp主だなんてどこで覚えたんです。」
「君の可愛い妹さんからに決まってるでしょ。」
苦笑しつつも力は義妹が見つかって泣きそうなくらい安心した。
聞いた場所に行くと確かに及川とスマホの入っていないガジェットケースを肩にかけた義妹がいた。逃走防止の為だろう、両肩は及川に掴まれていて今回ばかりは力もそれに文句を言わない。
「兄さん。」
「美沙、良かった無事で。」
「という訳で、はい、どーぞ。」