第16章 【喧嘩】
まずは最寄りのコンビニに行った。そこにまだいるなら話は早い。だが、
「いない。」
力は思わず呟く。最悪だ、背筋が冷たくなった。だがまだ近くにいるかもしれないとコンビニを出て移動しながら排球部関係者に電話を始める。
「美沙さんですか、いえ会ってないです。うちにも来てませんし。」
電話の向こうで谷地が言った。
「そっか、ごめん、ありがとう。」
「あの、何かあったんですか。」
「恥ずかしい話なんだけど喧嘩してさ、あいつ飛び出しちゃったんだ。」
「えええーっ。じゃ、じゃあ見かけたら絶対連絡しますっ、あとあと早く帰るように説得しますっ。」
「頼むよ。」
力は言って電話を切り、次に移った。
「妹、いやうちには来てねーぞ。ああちょっと待て姉ちゃん帰ってきた。ねーちゃーん、縁下妹見なかったかー。」
田中がおそらく近くにいるであろう姉の冴子に声をかけている。電話の向こうで冴子がどうしたんだと言っているのが微(かす)かに聞こえる。
「うち飛び出して帰ってこねーんだと。」
再び微かに聞こえる冴子の声、あたしは見てないなーと言っている。
「姉ちゃんも見てないみてえだ。」
「わかった、ありがとう。」
力はすぐ次に移る。
「美沙が帰ってこねぇってどうしたんだよっ、あいつがお前の側から離れるなんて。」
西谷が心底びっくりした様子で声を上げる。
「ちょっとな。」
「わり、どのみち俺は見てねえ。でもこっち来たらそっちすぐ連れてくかんなっ。」
「頼むよ。」
さて次だ。
「ごめん、俺も知らない。多分美沙さんが自分から俺んちの近くまで来るって事は考えにくいと思う。場所もわかんないだろ。」
成田は申し訳なさそうに言った。
「そうだよな、やっぱり。」
「でも美沙さんが飛び出すなんて珍しいな。万一こっち来たら兄貴が心配してるから早く帰れって言っとくよ。むしろ連れて行く。」
「悪い、助かる。」
次。
「妹か、こっちには来てないぞ。つかあの子俺んち知らねーだろ。」
木下はうーん、と唸ってからそう言った。
「まぁそうだろうとは思いつつさ。」
「喧嘩でもしたのか。」
「言わないでくれ。どのみちわかった、ありがとな。」
谷地と2年仲間までは全滅だ、次に移る。