第16章 【喧嘩】
義兄は穏やかで義妹をやたらと可愛がり、義妹はその義兄の言うことをほぼ聞き、それが行きすぎた挙句親に内緒で一線を越えてしまった縁下兄妹が喧嘩をした。実際は喧嘩というほどではないかもしれない。しかしほんの少しとは言え仲違いがあったのは確かだ。
力が覚えているのは自分が休日の部活でうまく行かない事があり珍しく苛立っていて、そこへ美沙が夕食だと力を呼んだのだが億劫がって自分は返事をしなかった。聞こえていないと思ったのか何度も呼ばれたので珍しくついカッとした。
「うるさいっ。」
怒鳴ってしまった。
「やいやい言うなよっ。」
美沙はショックを受けたのだろう。
「何なん、全然返事せんかったくせに。」
珍しく自分に向かってきつく言い返してきて、力の部屋のドアをバターンっと乱暴に閉めた。後で思うとまだ標準語ではなかっただけマシかもしれない。本当に些細(ささい)なきっかけ、だが今まで義妹に八つ当たりで怒鳴った事などなかった為、相当に傷つけてしまったらしい。
気まずいまま夕食にして義妹と言葉を交わせずにいたら事は起こった。
人見知りで出不精の義妹が夜だというのに夕食後、コンビニへ行ってくるとだけ言って外へ出てしまった。
すぐ戻ってくると思っていたらなかなか帰って来ない。
「遅いな、美沙の奴。」
こちらに来るまでに長屋の箱入り娘と言われ、本人もたまに自嘲気味に自称するくらい世間知らずの義妹が飛び出したまま戻ってこない。立ち読みでもしてるのかなとも思ったが義妹が好むような漫画本は最寄りのコンビニには置かれてないし雑誌類に至ってはビニールをかけているから立ち読み不可だ。
両親はもちろん心配し、力も落ち着かなくなる。
スマホから電話してみた。が、美沙は出ない。まさかと思い美沙の部屋に入ると美沙愛用のスマホが机の上に置かれていた。あのスマホ大好きが肩に下げたガジェットケースに入れてまで持ち歩いているものを置いていっている。これは異常事態だ。力の焦りは加速した。
たまらなくなった力は両親が止めるのも聞かずに外へ飛び出して義妹を探しにいった。