第15章 【清水の差し金、義兄の悪乗り】
「どーしよう。」
清水が去ってから力は呟いた。
「何もらったんだよ、縁下。妹用って潔子さん言ってたけど。」
「いやその、服、なんだけど。」
力は歯切れ悪く言った。正直に田中には言いたくない。大笑いされるのが目に浮かぶようだ。
「あの美沙がこんなの大人しく着るかなぁ。」
呟く力に紙袋の中をちらっと見た成田が言った。
「お前が着ろって言ったら着るんじゃないか、美沙さんだし。」
「どーゆー意味だよ。」
「忠犬美沙たん。」
「木下、お前までやめてくれ。」
いつものように成田と木下にもおちょくられ、力はため息をついた。
縁下美沙には週の大半は放課後を学校の図書室で宿題他の勉強をして過ごし、義兄の力が部活を終えた頃に合流して男子排球部の面々と一緒に帰るという側(はた)から見れば不思議な習慣があった。一度誰かに階段から突き落とされた事件があり(犯人は未だ不明)、義兄の力が異常に心配した結果である。しかし週5日全部に適用されるのは流石に美沙も嫌がった為、たまにはそうしない日もあった。(毎週スマホのサイコロアプリで日が決められる)丁度この日は図書室におらず普通に帰る日だった為、美沙は既に帰宅していた。
「あ、兄さん、おかえり。」
帰宅すると珍しく美沙が降りてきて玄関で出迎えてくれた。
「ただいま。あれ、母さんは。」
「急にお友達とお出かけすることになった言うて外に出はった。」
「ふぅん。」
力はそれだけ言ったがこれは好都合だと思った。
「あ、そうだ美沙。これ、清水先輩から。」
言って力は美沙に持ち帰った紙袋を手渡す。
「えらいもふもふした荷物やね、お洋服。」
疑問形で言う義妹に力は頷いた。
「是非着てほしいって。あと、着たら写真頂戴って。」
「清水先輩がそこまで言わはるなんてめずらしなぁ。ほなせっかくやし今から着してもらおかな。」
「うん、きっと清水先輩喜ぶよ。」
「わかった。」
美沙は受け取った紙袋を抱え、パタパタと足音を立てながら二階の自室へと上がっていった。力は内心、ごめんよ美沙と思った。
しばらくしてから二階の義妹の部屋からふぎゃああああああっという叫びが聞こえた。